司法試験受験日誌

司法試験合格過程

R2予備・憲法

R2予備・憲法・2022・1022

 

問題文

報道機関による取材活動については一般にその公共性が認められているものの取材対象者の私生活の平穏の確保の観点から問題があるとされ、とりわけ、特定の事件・事象に際し取材活動が過熱・集中するいわゆるメディア・スクラムについて何らかの対策がとられる必要があると指摘されてきた。中でも、取材活動の対象が犯罪被害者及びその家族等となる場合それらの者については何の落ち度もなく、悲嘆の極みというべき状況にあることも多いことから報道機関に対して批判が向けられてきた

 そのような状況の下で、犯罪被害者及びその家族等の保護を目的として、これらの者に対する取材活動を制限する立法が行われることとなった

 具体的には、まず、「犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」を「犯罪等」とし、「犯罪等により害を被った者及びその家族または遺族」を「犯罪被害者等」としたうえで報道を業とするもの(個人を含む。以下「報道関係者」という。)の取材活動について犯罪被害者等に対して取材及び取材目的での接触(自宅・勤務先等への訪問、電話、ファックス、メール、手紙、外出時の接近等)を行うこと(以下「取材等」という。)を禁止する。ただし、当該犯罪被害者等の同意がある場合はこの限りでないこの同意は報道関係者一般に対するものでも特定の報道関係者に対するものでもありうる。)。なお、捜査機関は捜査に当たる場合には犯罪被害者等が取材等に同意するか否かについて確認し報道関係者から問い合わせがあった場合には回答するものとするほか犯罪被害者等が希望する場合にはその一部または全員が取材等に同意しないことを記者会見等で公表することもできる

 次に、以上の取材等の禁止(犯罪被害者等の同意がある場合を除く。)に違反する報道関係者があった場合捜査機関が所在する都道府県の公安委員会は当該報道関係者に対して、行政手続法等の定めるところに従い憲法上適正な手続きを履践したうえで取材等中止命令を発することができるこの命令に違反した者は処罰される。したがって、犯罪被害者等へ取材等を行うことは犯罪被害者等の同意がある場合を除き禁止されるが直ちに処罰されるわけではなく処罰されるのは取材等中止命令が発出されているにもかかわらず取材等を行った場合であるということになる

 なお、犯罪被害者等は取材等中止命令の解除を申し出ることができ、その場合、当該命令は速やかに解除される。また、上述の通り、犯罪被害者等の同意がある場合は取材等の禁止は適用されない

 以上のような立法による取材活動の制限について、その憲法適合性を論じなさい

 

自己答案

第1 問題文中の立法による取材活動の制限の憲法適合性について。

1 取材は、表現の自由として保障される報道にとって不可欠の前提をなすものであるから、取材の自由も報道の自由の一環としてより積極的に保障すべきものである。取材の自由は報道の自由に含まれるものであり、憲法(以下法名略す。)21条1項により保障される重要な自由である。

 しかしながら、特定の事件・事象に際し取材活動が過熱・集中し、メディア・スクラムが生じることがあり、取材対象者の私生活の平穏が害されることがある。

 私生活の平穏を害することは、個人の尊重や幸福追求権(13条)、またプライバシーの権利を害するものである。

 13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めている。個人の尊重とは、憲法中の最大の価値というべきものであり、憲法の目的というべきものである。

 また、幸福追求権(13条)も個人の自己実現を目的とするものであり、最大限尊重されるべきものである。プライバシー権とは、他者から不当な干渉を受けず、幸福追求し、自己実現をするためには不可欠のものであり、重要な権利である。

 これらの個人の尊重や幸福追求権、またプライバシー権は、公共の福祉に反しない限り、憲法によって保障されなければならない価値や権利である。

 そこで、問題となるのは、当該立法による取材活動の制限が、憲法に適合するかどうかということである。

第2 当該立法の具体的憲法適合性。

1 当該立法は、報道関係者の取材活動について、犯罪被害者等に対して取材及び取材目的での接触を行うことを禁止している。ただし、当該犯罪被害者等の同意がある場合はこの限りでない。すなわち当該被害者等の同意があれば取材が可能であるということである。

 当該被害者等の同意があれば取材可能というのであるから、被害者等の意思が尊重されているということができ、憲法上の問題はない。被害者等の人権が尊重され、取材の自由、報道の自由、人々の知る権利が満足され、公共の福祉にも適合する。

2 「捜査機関は、捜査にあたる場合には、犯罪被害者等が取材等に同意するか否かについて確認し、報道関係者から問い合わせがあった場合には回答するものとするほか、犯罪被害者等が希望する場合には、その一部または全員が取材等に同意しないことを記者会見等で公表することもできる」と当該立法は定めている。

 この点、犯罪に関する情報を有する捜査機関が、犯罪被害者等の取材可否を確認することには、合理性がある。これによって犯罪被害者等の人権は害されることがなく、憲法に適合すると考えられる。

 当該立法は「以上の取材等の禁止…に違反する報道関係者があった場合、捜査機関が所在する都道府県の公安委員会は、当該報道関係者に対して、行政手続法等の定めるところに従い憲法上適正な手続きを履践したうえで、取材等中止命令を発することができる。この命令に違反した者は処罰される。」と定めている。

 この点、取材禁止に違反した報道関係者に対する命令や処罰があることで、取材活動の集中・過熱、またメディア・スクラムの抑止効果が期待できる。これによって、犯罪被害者等の人権が保護される。

 また、当該立法は、「犯罪被害者等は、取材等中止命令の解除を申し出ることができ、その場合、当該命令は速やかに解除される。」と定めている。これによって、犯罪被害者等の保護が実現されうるとともに、犯罪被害者等の表現の自由・精神の自由が保障される。また、報道機関等の取材の自由・報道の自由表現の自由が保障される。犯罪被害者の保護、犯罪被害者の表現の自由・精神の自由、報道機関等の取材の自由・報道の自由表現の自由が保障され、憲法に違反しない。

以上

 

分析

対立利益は、犯罪被害者等の保護(個人の尊重)と取材の自由・報道の自由表現の自由(公共の利益)

 要は、報道機関等は、メディア・スクラムを起こすことで、犯罪被害者等を害することがなければ取材・報道活動は自由であり、取材の自由・報道の自由は保障されるべきである。